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人形は好きだけど、着ぐるみを怖がる子どもの心理

掲載日: 2016年5月9日更新日: 2016年5月9日岡本有紗

アニメキャラクターの人形や、かわいい動物のぬいぐるみが大好きな子どもたち。大きな着ぐるみに会えたらさぞ喜ぶかと思いきや、意外なことに大号泣! という経験、ありませんか。人形は好きでも着ぐるみが怖い、という子がいるのはなぜなのでしょうか。子ども発達学の専門家に解説していただきました。

「着ぐるみ怖い〜!」アニメや人形は大好きなのにどうして?

「大人から見れば、着ぐるみは単に大きいぬいぐるみですよね。でも、子どもから見た場合、着ぐるみは、ぬいぐるみやいつものアニメキャラクターとはまったく別の物として映る場合があるのです。着ぐるみを怖がるのはそのせいでしょう。」

神戸松蔭女子学院大学・子ども発達学の教授、寺見陽子さんはこのように話します。

同じ顔や姿をしたキャラクターが、まったくの別物に感じられるとは不思議ですね。なぜ着ぐるみだけに怖さを感じてしまうのでしょうか?

「絵本やアニメで見るキャラクターは、平面的で小さいですよね。ところが、着ぐるみになったキャラクターは、立体的なうえ巨大になっています。子どもが覚えているのは、あくまでも絵本やアニメの中のキャラクター。たとえ姿そのものは一緒でも、いつも親しんでいたキャラクターと同じものだとは思えないのです。だから着ぐるみを見たとき、まず『何これ!?』という感想を持ちます。さらには『知らない巨人がいきなり目の前に現れた!』とすら感じるかもしれません。そりゃ、怖いですよね(笑)。」


ただの臆病とはちょっと違う。怖がるのも発達の証!

着ぐるみを怖がって大泣きされてしまうと、親は戸惑いますし、着ぐるみ(の中の人)にも申し訳なく思ってしまうものですが、子どもの発達の過程上は正常なことだと寺見さんは言います。

怖いと感じるのも子どもの発達の証。肯定的にとらえていいんですよ。子どもが着ぐるみを怖がる背景にはいろいろな要件が絡んでいますが、中でも大きく関連しているのは、『奥行きの理解』の発達です。」

「生まれたばかりの赤ちゃんは物を平面としてしか認識できませんが、生後8カ月〜9カ月頃になると、自他を区別し、視点の変化から、物を立体として認識するようになります。この感覚が育ってくると同時に、高さや大きさに対する怖さが出てくるので、ガラス張りの床を渡れなくなったり、よじのぼった棚の上から降りられなくなったりします。着ぐるみについては、その大きさと立体感を理解できるからこそ、怖いと感じるわけです。」

なるほど。物を立体的に知覚できるようになって初めて、着ぐるみの大きさに驚いたり怖がったりという現象が現れてくるのですね。

「そうです。奥行きの理解が未熟な時期は、着ぐるみを見ても『何か大きなモノがあるな』くらいの認識だと思います。しかし、乳児期を過ぎ、奥行きを理解できる年頃になると、経験したことの記憶から因果関係(こうしたら、こうなる)を理解する力もついてきます。だから、キャラクターをテレビの中で動くものと理解していたり、ぬいぐるみをイコール小さいものとして覚えていたりすると、動きも大きさも違う着ぐるみに戸惑ってしまうのです。」

とはいえ、みんながみんな、着ぐるみを怖がるわけではないようですが…。

「それは発達の問題ではなく、その子の性格や特性によるものでしょう。個人的には、その子の育つ環境の影響が大きいと思っています。注意深く神経質に育てられれば慎重に、良くも悪くも大らかに育てられればあまり物怖じしなくなるという感じですね。」


「怖い!」を好奇心に変えてあげる、親からのひと押し

では、実際に着ぐるみを見て怖がっている子には、どうしてあげればいいでしょうか?

「怖がっているからと遠ざけてしまうのではなく、まずは『怖くないよ』という演出をしてみては。大きなものに上から見下ろされると怖いので、肩車したり、着ぐるみさんにしゃがんでもらったりして、なるべく目線をそろえる。そして状況を見ながら、『怖い』を『興味』に変える方向に持っていくのが大切です。『大きいけれど大丈夫なんだ』と思ってもらえたらいいですね。」

また、奥行きの理解が始まるころからが「本当に教育が大切なとき」だと寺見さん。

「このころから、自分の体験と感情と認知が結びつきやすくなるからです。びっくりするような事柄に出会ったとき、それを怖がるだけではなく、興味を持って関わってみようという心を育ててあげる。それが大事なのではないでしょうか。それによって、好奇心、興味・関心、積極性、自発性が育ち、やがて知的な発達へとつながると思います。」

ただし、「着ぐるみに関しては、どうしても怖ければ避け続けてもいい」と寺見さん。

「着ぐるみと触れ合わなかったからといって、その子の発達が止まるわけではありませんから。ちなみに、個人差はありますがだいたい3歳を過ぎてくると、自分のイメージの中のキャラクターと着ぐるみは別だと認識でき、怖がらなくなりますよ。」

着ぐるみを怖いと思うのも発達。怖くなくなるのも発達。そのときそのときの子どもの感情を成長のひとつとして受け止めてあげれば、親も大らかな気持ちでいられますよね。もし余裕があれば、怖くても勇気を持てるよう、子どもの背中を少し押してあげることも、親の大事な仕事かもしれません。

お話を聞いたのは…

  • 寺見陽子さん

    神戸松陰女子学院大学・子ども発達学科長。教授。専門分野は発達心理学、乳幼児教育学、子育て支援。子どもの認知と自我、親の役割等に関する研究を中心に、近年は父親の育児へのかかわりや親子関係の質の向上を促すプログラムの開発に関する研究にも着手している。子ども保育の心理学(保育出版)、新保育士養成講座「保育内容総論」(全国社会福祉協議会)、子育ち・子育て支援学(保育出版)など、学術著書、教科書等の執筆多数。

ライター紹介

岡本有紗

2児と猫3匹を育てるライター。メディカル系専門の広告制作会社でライティングと編集業務を経験後、出産を機にフリーに。得意分野はやはりメディカル系だが、いろいろな分野を経験し幅を広げたいというのが現在の目標。趣味はあえてチープな手段で行く一人旅(休止中)、特技はハモリと絶対音感。

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